日本でもアメリカでも必要なのがバイブレーション
今まで数々のハードベイトを作ってきたキムケンだが、過去に手掛けてから、しばらく暗礁に乗りあげていたタイプもあった。
それが、バイブレーション。いわゆるリップレスクランク。
キムケンいわく、ボディを厚めに製作したモノで、早巻き専用の全開巻き仕様。
バイブレーションはクランクベイトと違って、リップではなく、ボディやヘッドで水を受けるタイプのプラグ。
手作りでは、ある程度のモノはできても、よいモノはできないことに気づいたとのこと。
発泡樹脂や無垢の素材(ウッドなど)ではどうしても作る際に限界がある。
それを感じてバイブレーションは新たなモノを作らなかった経緯もある。
最大の理由として、市場にあるモノよりよいルアーが作れないということ。
キムケンいわく、バイブレーションプラグは、ボディや内部構造などに精度がないと真っすぐ泳がすのも難しい。
手間暇どころか同じモノに仕上げるまでの時間は元より、バイブレーションでも、どういったモノを目指すかという時点で自作では限界を感じたのがホンネ。
手作りで限界を感じたバイブレーションだが、ここで自分のカタチにさせてもらえる機会が訪れた。
コンセプトは変わらず「猪突猛進」
バイブレーションといえば、現在の日本の主な使い方はゆっくり巻くことが多いそうな。
ゆっくり巻いて底に当てながらトレース。これがここ最近の日本での使い方の1つ。
バイブレーションに関しては、昔から使っている人であったり、キムケンの主戦場となっているアメリカでは、シャローからミドルレンジでの早巻きが主体。
そのため、キムケンが必要性を感じて手掛けるモノは早巻きするタイプ。
ここで考えたのは、速く巻いても直進性の高いモノ。
キムケン的に、バイブレーションは2タイプに分かれるそうで、その1つはワーミングバイブレーション。
ワーミングバイブレーションとは、ゆっくり巻いてもきっちりと水を噛んで泳いでくれるタイプを指す。
ヘッド部にウエイトが集中しているタイプは、底などに当たった時の回避性能が高くなる。
底を引いても引っかかりにくく、スローに引いてもしっかり泳いで使いやすい。
ただ、直進性を高めるには、ウエイトは中間から後ろの位置が理想となる。
バイブレーションを作るにおいて、ウエイトの位置をどうするか=バイブレーションをどう使いたいかで大きく変わってくる。
まず先述の通り、ヘッド集中型はゆっくり巻いても動いてくれる。
モノに当たった時は抜けやすいバランスに設定できるが、この重心では速く巻いた時に浮きあがりやすくなる。
さらに、モノに強く(速く)当たった時は、ルアー自体の跳ね返りも強くなる。
これをどう捉えるかが重要!
キムケンが手掛けはじめたイヴォークバイブは、イヴォークコンセプトの猪突猛進を踏襲。
そのため、確定しているのは、真っすぐ直進性を維持してくれるタイプに仕上げること。
イヴォークの名を冠するため、絶対に欠かせない要素でもある。
バイブレーションを作っていくうえで確定なのは、モノに対してコンタクトしても、浅く当たって跳ね返りを抑え、すぐに立ち上がるタイプ。
このイメージで多くのプロトタイプを作ってきたが、原型の段階で10個以上、キムケンいわく15型ほど製作したとのこと。
これは、過去のVish キムケンスタイルを観てもらっても分かるはず。
このイヴォークバイブ(プロト)は、ボディのベースをイヴォーク1.2から作りあげたモノ。
ご存じの通り、イヴォーク1.2はラウンドボディで丸みを帯びた形状。
ラウンドボディで厚みもあるため、最初のカタチにするまでかなり肉を削り込んで製作。
こちらサイドもプロト状態から見ていたこともあり、現段階の型はかなりシェイプアップされている。
モノへの当たり方と回避した時の抜け方に関しては、立ち上がりを重視したバランスの恩恵で、水の掴み方も飛躍的にUPした。
この基本性能を実現できたのがウエイト設定。
イヴォークバイブはウエイトをボディの内部ではなく、外側に設置。
元々はノド元に設置していたタイプもあったが、使い込むうちにウエイトは腹側に移動。
ウエイトの重心も後方に寄せることで、当初から理想の動きが生まれることとなった。
このウエイト位置とバランスがもたらす副産物もうまれることとなる。
それが、フォール姿勢。
ウエイトの位置で頭寄りではなく、腹側から自然に落ちていくバランスを確立。
バイブレーションによくあるヘッド重心で頭直立型は、シャクったあとに頭からストンと落ちてしまう。
これは仕方のないことだが、これはリアフックなどがラインを拾って絡む=エビってしまう。
現在のウエイト位置&バランスになることで、頭からではなくナナメの姿勢で落ちてくれることで、エビる心配も軽減してくれるようになった。
実は、このフォール姿勢と巻いた時のアクションの両立が非常に難しい部分。
ここでかなり細かくバランスを煮詰めてテストしていたのが、イヴォークバイブの源流となった。
現段階のプロトは、腹側にウエイトを寄せたタイプとしてはトップレベルの完成度とのこと。
フォール姿勢だけではなく、水中での食いつき感もよい段階となった。
もう1つの理想は高速巻きでのカバーの抜け感
ここでキムケンが求めるもう1つの理想が、カバーの横を高速で巻いて通せること。
使い込んだプロトを見れば一目瞭然だが、ヘッド部はかなり削れている。
このモデルで岩に当ててみた時はドコに当たっているか。また、当たった時の抜け方はどうだったかもデータとして抽出。
わずかな姿勢の違い、立ち上がりの違いで、バイブレーションの性格は大きく変化する。
帰国後のわずかな時間での実戦テストや渡米後の密なフィールドテストによって、キムケンの理想に近づいてきたとのこと。
ただ、キムケンのモノ作りにおいてのベーシックコンセプトは「妥協したくない」ところ。
これは何を作るにしても同じこと!
自身で納得するのはもちろん、デプスで製作しているからこそできるというクオリティになるまで作り込むとのこと。
完成までは長い道のりだが、仕上がったモノの完成度は確実に高い。これがキムケンのモノ作りに対する答え!
イヴォークバイブは2024年11月後半、細かい微調整を施しながらほぼ完成となった。
EVOKEシリーズのこれから
カバークランクにはじまり、水面系ノイジー、シャッドプラグ、バイブレーション。
自らが必要とした数々のハードルアーをカタチにしてきたキムケン。
キムケンが手掛けるイヴォークの基本コンセプトといってもよい猪突猛進型と直進性だが、モノ作りの最初はラウンド型のクランクではなく、フラットサイドクランクだった。
その理由として、素材はもちろん、自前の工具や環境で無理なくできる範囲だったのが、フラットサイドクランク。
ハンドメイドでいろいろ手掛けるうちに、フラットサイドのデメリットでもあった飛距離もラウンド型ならば、ある程度は克服。
その最終的な結論が、カバークランク・イヴォーク1.2の誕生。
苦労に苦労を重ねたイヴォーク1.2の完成で、一気にイヴォークコンセプトの世界観が広がったといっても過言ではない。
再燃してきたフラットサイド熱。その理由は?
さて、1年の活動のほとんどをアメリカで過ごすキムケンにとって、年明け過ぎで低水温期のタイミングに毎回直面することがある。
それが、フラットサイドクランクの強み。
その場面を実感するタイミングに毎年、アメリカではご存じ「バスマスタークラシック」が開催される。
アメリカでも日本でも、低水温期で早春前といえば、かなりシビアな時期。
この季節や状況に打ち勝つべく、以前からイヴォークの派生モデル「イヴォークフラット(仮)」の製作を打診していた。
今までは完成度の高いルアー作りを根源に、自分のスキルを埋めるため、信じて巻ききれるルアーを作りたい一心で動きはじめていた。
このプラグに関しては、今までのイヴォークシリーズと違う点が1つ。
「コレで試合に勝ちたい」という信念から生まれたというところ。
特に、毎年選ばれしプロアングラーしか出場できないバスマスタークラシックでは、このルアーで勝ちたいという思いが非常に強い。
そのため、今まで手掛けてきたルアーとは異なる方向性で開発は秘密裏にスタートしていた。
モノ作りの源流こそ「フラットサイドクランク」
キムケンが手掛けたハードベイトで、一番最初に作ったのは「フラットサイド」。
フラットサイドクランクから作ることになったのは、生産効率を考慮し、削りだしで手間もかかりにくいのが最大の理由。
そこから段階を重ねるごとにラウンド形状のボディに寄っていった。
そのフラットサイドクランクの利点を、キムケンは以下のように答えてくれた。
形状的に水を受ける面積も狭くなるため、アクションを絞り込みやすいといえる。
そのわりに高さをだせるのが、フラットサイド形状の特性。
このフラットサイド特有の利点を活かしてキムケンが考えたのは、タイトアクションで食いつきのよいモノ。
アクションピッチを高めつつ、ボトムに対してもしっかり食いついてくれるクランクベイトとして開発をスタート。
ハイピッチにすることでスローロールでもバイトを拾っていけるクランクを目指したのが、作りはじめた最大の理由。
実際、数あるフラットサイドクランクの中で、狙いのレンジをスローロールできてボトムに食いついてくれるタイプが世の中にないそうで、このタイプじゃないとバイトを引きだせないことも実感!
このルアーでしか釣ることができない魚がいるならば、絶対に作らないと大舞台で勝負すらできない。
そこで作り込んでいったプロトタイプがコチラ。
ウッドボディだとリップはボディに差し込む形になるが、ABSボディであればリップも今まで以上に位置や形状を作り込めるようになる。
まだまだ完成とまではいかないが、現在もウエイトバランスやボディ形状、リップ形状を見直しながら実戦投入して作り込んでいるとのこと。
ハイピッチでキレッキレな泳ぎとボトムに食いつく水中姿勢。キムケンが求める理想のカタチを追求している途中でもある。
現段階で分かっているのは、今のモデルはフラットボディ形状で固定重心。
本当であれば飛ばしにくく感じる設計だが、実際はイヴォーク1.2よりも飛距離がでる状態。
ボディやリップの形状を作り込むことで、風をキレイに受け流すデザインを追求。
キムケンが考えるイヴォークフラット(仮称)は「ワーミングクランクの究極型」。
キムケンをはじめ、モノ作りに携わる多くの人が昔からよく聞かれるのが、いつ完成(発売)ですか? というところ。
イヴォークフラットは完成を急ぐこともないが、完成時はキムケンが夢見る大きなタイトルを手にした時となるだろう。
■ルーツオブデプス 木村建太×イヴォークバイブ(仮)とこれから